甲府地方裁判所 平成9年(行ウ)5号 判決
原告
氏家隆明(X1)
同
氏家トヨ子(X2)
同
松田冨彌(X3)
同
松田百合子(X4)
同
天野千文(X5)
同
天野金治(X6)
原告ら訴訟代理人弁護士
寺島勝洋
同
関本立美
同
加藤啓二
同
關本喜文
被告
(忍野村長) 三浦玄吾(Y)
右訴訟代理人弁護士
関二三雄
事実及び理由
第二 事案の概要
二 原告らの主張
1 次の事情を総合すると、本件旅行の実態はゴルフツアー以外の何ものでもなく、これに公金を支出したのは違法である。
(一) 議員全員に対する本件旅行の趣旨説明及び参加の意思確認がされていない。
(二) 本件旅行の行程上、視察研修らしきことは行われていない。
(三) 議員相互の親睦を目的とするにすぎない互助会がゴルフのプレー代及びホテル宿泊費の支払いをしている。
(四) ゴルフ場の視察においてプレーをする必要はない。
2 仮に本件旅行に視察研修の目的があったとしても、本件支出のうち飲料費等及び昼食代の支出は、それぞれ次のとおり、違法である。
(一) 飲料費等の主たる内容は酒代であり、議員らと村長ほか村幹部との懇親会の酒代を総務費から支出したのは違法である。
(二) 昼食代は総額一四万円を超えており、一人当たりでは一万円を超える額であるから、社会通念上相当でない。
三 被告の主張
普通地方公共団体の事務遂行上、その対外的折衝の過程において、その長等が社会通念上儀礼の範囲にとどまる程度の接遇を行うことは、右事務に随伴するものとして許容されるというべきであるところ、次のような本件旅行が実施された経緯、その内容及び本件支出の内容・金額をみると、本件支出は右許容範囲内の適法なものである。
1 村と本件会社との関係
(一) 本件会社は、長年にわたって村が内野地区に誘致してきたゴルフ場造成事業(以下「本件事業」という。)の事業主体であり、現在山梨県との間で本件事業を行うのに必要な事前協議手続を進めている。
(二) 本件会社の前代表者は、村出身者であり、村の関係機関等に多額の寄付をするなど村に多大な貢献をし、その死後には名誉村民とされている。
2 本件旅行が実施された経緯
(一) 右のような村と本件会社との関係により、被告及び議員らは、本件会社の代表者から、本件ゴルフ場は本件事業で予定されているのと同一の設計・施工による最新のものである旨の説明を受けた上、本件ゴルフ場の竣工披露に招待され、平成八年四月二三日これに出席した。
(二) 平成八年五月九日には、助役及び議員らが、神奈川県平塚市所在の本件会社の本社を訪れ、本件事業の早期実現を要望してその進捗状況につき説明を受けたが、その際、本件会社の代表者から、本件ゴルフ場で実際にプレーをして理解を深めてもらいたい旨の提案がされた。
(三) 右議員らは、右提案を被告に伝えて相談し、本件旅行が実施されることとなった。
3 本件旅行の内容等
(一) ゴルフのプレー開始前に行われた幹部社員らとの歓談の際、右社員らから本件ゴルフ場の造成及び経営等について説明があり、質疑応答もされた。
(二) ゴルフのプレー中も、幹部社員らからゴルフコースの状況等についてし細に説明を受け、これを見聞した。このように右プレーは視察研修の一環として行われたものであり、決してプレーが主目的であったわけではない。
(三) ホテルでの懇親会においても、幹部社員らから本件事業に対する本件会社の基本的姿勢及び考え方等の説明がされ、相互理解が図られた。
4 本件支出の内容等
(一) ゴルフのプレー代及びホテルの宿泊費等は互助会が負担しているが、互助会は、親睦のほかに議員活動の援助等を目的とした公の意義を有する団体であるから、互助会の右負担は、本件旅行が公的な視察研修であることと矛盾しない。すなわち互助会の右負担は、公金支出について慎重を期し、無用な誤解を避ける趣旨である。
(二) 本件旅行の過程において、本件会社の関係者と会合し、相互に接遇する事態は当然予想されるところであるから、その内容、参加人数及び金額等に照らし、本件支出のうち飲料費等の支出は社会儀礼上相当な範囲内のものである。また、本件旅行に伴う昼食代及びバスの借上料の支出は当然必要な支出であり、昼食代も一人当たり約五六〇〇円であって高額とはいえない。
第三 当裁判所の判断
一 前記争いのない事実のほか、〔証拠略〕によって認められる事実は、次のとおりである。
1 本件旅行が計画された経緯
(一) 本件会社は、本件事業の事業主体であり、現在、山梨県条例に基づく事前協議手続が進行中である。なお、本件会社の前代表者は村出身者であり、村や内野地区、村ゆかりの寺社等に多大な寄付をするなどして村に貢献したことから、死亡後に名誉村民とされた。
(二) 本件旅行の前にも、本件会社の代表者から、本件ゴルフ場が本件事業を理解する一助になる施設であるとして、被告及び議員らに対し本件ゴルフ場の竣工披露の案内があり、平成八年四月二三日、被告及び議員らがこれに出席した。
(三) 平成八年五月九日、助役及び議員らが本件会社の本社を訪れて本件事業の早期実現を要望した際、本件会社の代表者から、本件会社が経営する最新のゴルフ場である本件ゴルフ場を見学して欲しい旨の提案があり、この提案を持ち帰った議員らが被告と相談した結果、本件旅行が計画された。
2 本件旅行の実施状況及び本件支出の取扱い等
(一) 被告と互助会の役員である議員らは、本件旅行を互助会の主催により行うこととし、互助会役員及び総務課長がその具体的な段取りをした。
互助会は、新年会等の親睦を図る活動をしてきた議員らの任意団体であり、本件旅行当時、議員総数一六名中一五名がこれに加入していた。したがって、互助会に未加入の議員はそもそも本件旅行に参加する立場になかったが、実際には、互助会に加入していた議員の中にも本件旅行の実施を知らなかった者がいた。
また、本件事業を所管する企画課は、本件旅行の計画・実施に関与しなかった。
(二) 被告は、本件旅行の費用中、酒代約三〇万円について公金を支出しようとの考えから、総務課長と相談の上、歳出予算の総務費から右程度の金額の範囲内で本件旅行費用の一部に充てるため公金を支出することとし、具体的な支出については総務課長の個々的な判断にゆだねた結果、本件支出がされた。
なお、互助会は、ゴルフのプレー代、ホテル宿泊費等の本件旅行費用として、約七〇万円をその積立会費から支払った。
(三) ゴルフのプレー前の歓談時やホテルでの懇親会の席上、幹部社員らと被告及び議員らとの間で、本件事業に係わる話題が持ち上がったり、これに関連して本件ゴルフ場の造成・経営について説明や質疑応答も散発的に行われたが、右の歓談や懇親会は右のような本件事業に係わる説明等を予定して企画されたものではなかった。
二 普通地方公共団体は、その執行機関、議会議員及び議員等の視察研修を実施し、その費用に充てるため公金を支出することができるが、視察研修の目的には、一般教養の向上や職員相互の親睦を図るなどの目的も含まれ得るし、またその間に適度の休憩・静養も必要であるから、視察研修の行程・内容に観光的又は娯楽・遊興的な要素があるとしても、そのことから直ちに視察研修としての性質が失われるものではたい。しかしながら、視察研修がもっぱら私的な観光や娯楽・遊興を目的としたものである場合には、右視察研修はその実体を失った名ばかりのものとなり、普通地方公共団体がそのような視察研修を行うことは許されないから、これについての公金支出は違法であるというべきである。
そして、前記認定事実及び争いのない事実によって本件旅行をみるに、本件旅行の行程及びその内容に加え、本件旅行が主として親睦のための団体である互助会の主催によること、議員でありながら、特段の事情もないのに、本件旅行の実施を知らなかった者がいたこと、本件事業を所管する企画課が本件旅行に関与しなかったこと、本件支出中の各支出もいわば場当たり的なものであること等を総合して判断すると、本件旅行は、もっぱらゴルフプレーの遊興目的のもとに互助会が計画・実施したものであって、視察研修の実体を有するものとは言い難く、被告もこれを認識した上で本件支出をしたものと認められる。したがって、本件支出は違法である。
三 本件訴状が本件支出後である平成九年四月三日に被告に送達されたことは、記録上明らかである。
四 したがって、違法な本件支出により村に同額の損害を与えたとして、被告に対し不法行為に基く損害賠償を求める本訴請求は、理由がある。
(裁判長裁判官 生田瑞穂 裁判官 秋武憲一 佐藤和彦)